
過去の記録を今どのように後世に伝えるか
保存環境・定期点検・複製・媒体移行を継続することが必要です。
情報を記録する媒体として長らく「紙」が使われてきましたが、近代以降、様々な記録メディア(フィルム・磁気・光ディスク・デジタル媒体)が登場しました。これらの情報を損なうことなく維持するには、各媒体に応じた保存環境(温度・湿度)を維持する必要があります。
※JISの規格によって、中期・長期・永久の使い方は用語の定義が異なります。JIS Z 6017では光ディスクの長期保存は10年から30年を示しますが、JIS Z 6009ではマイクロフィルムの長期保存は100年、永久保存は500年以上を示しています。
1.記録媒体の保存条件


国立国会図書館(貴重書書庫)
国立公文書館(貴重図書)
国立公文書館(一般図書)
JIS Z 6009 銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理および保存方法
JIS K 7642 写真-写真印画の保存方法
JIS K 7641 写真-現像処理済み安全写真フィルム保存方法
JIS Z 6009 銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理および保存方法
※中期保存条件とは最低10年間の保存条件
※永久保存条件とは永久的価値をもつ記録の保存条件
(期待寿命の長さ500年以上の保存)
JIS K 7641 写真-現像処理済み安全写真フィルム保存方法
※長期保存条件とは500年間品質を保つための条件
※中期保存条件とは最低10年間品質を保つための条件
JIS K 7642 写真-写真印画の保存方法
※中期保存条件とは最低10年間の保存条件
※長期保存条件とは永遠の価値をもつ記録の保存条件
長期保存の24時間以内の変動幅は、±2℃ ±5%
※中期保存の24時間以内の変動幅は、±5℃±10%
長期保存の24時間以内の変動幅は、±2℃・±5%
中期保存の24時間以内の変動幅は、±5℃ ±10%
※10年から30年程度真正性・見読性を保証できる保存条件
Audio&Videotape じょうずな使用法・保存法ハンドブック
(日本磁気メディア工業会)
IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則
JIS Z 6017 電子化文書の長期保存方法
IFLA図書館資料の予防的保存対策の原則
電子公文書の作成・保存・利用ガイドブック(国立公文書館)
標準的なオフィスの
温度と湿度
長期保存には適さない
紙・書籍
媒体
温度
相対湿度
最高21℃
カラー
最高 2℃
最高 2℃
最高25℃
最高25℃
20〜30%
20〜50%
22℃
55%
最高25℃
30〜40%
30〜60%
最高21℃
最高25℃
15〜40%
15〜60%
基本20℃
基本22℃
55%基本
最高60%
最高21℃
20〜50%
20〜50%
20〜50%
白黒TAC
白黒PET
マイクロフィルム
白黒
カラー
50%基本
最高60%
平均21℃以下
最高32℃
平均50%
最高60%
TAC
PET
TAC
PET
最高 2℃
最高18℃
30〜50%
30〜40%
白黒
カラー
15〜25℃
30〜40%
15±3℃
40〜60%
10〜25℃
40〜60%
20℃以下
40%
HDD
SSD
USBメモリー
デジタル証拠の保存 (NIST米国国立標準技術研究所)
印画紙
写真
プリント
写真フィルム
スライド
リバーサル
ネガフィルム
CD/DVD
光ディスク
磁気テープ
フロッピーディスク
出典
日常使用しているCD・DVDやカラー写真などの記録媒体にも保存に適した温度・湿度の条件があることがお分かりいただけたかと思います。JIS規格に基づくと夏場にCDを車内に持ち込むこともできなくなります。またカラー写真は、冷蔵庫に保管しなければならなくなります。四季があり年間を通じて温度変化が激しく、湿度の高い日本においては、記録媒体に適した温度・湿度を維持することは容易なことではありません。休日や夜間に書庫の空調を停止する場合も、急激な温湿度変化により結露、カビ、変形、化学的劣化に注意が必要です。重要なのは理想値を一時的に満たすことよりも、媒体に適した範囲をできるだけ安定して維持することです。

「HDD(ハードディスク)」
更新検討の目安: 3~5 年程度
HDD は磁気ディスクと精密な読み書き機構を備えた記録装置です。機械部品を含むため、使用年数が短くても突然故障する可能性があります。3~5年程度を更新検討の目安とし、稼働時間、温度、振動などを確認しながら、故障前に新しい媒体へデータを移行する運用が必要です。
■
「SSD / USBメモリ」
単独での中長期保存には不向き
SSDやUSBメモリは、フラッシュメモリを使用した記録媒体です。可動部がなく高速で、衝撃に比較的強い一方、書込回数、製品品質、保存温度、未通電期間などの影響を受けます。保存期間を一律に示すことは難しく、重要データは単独で保管せず、別媒体への複製、定期的な読み出し確認、計画的な媒体移行を前提に使用する必要があります。

記録媒体は素材や構成によって経年劣化が生じ、やがて記録・再生性能が低下します。ただし、推定寿命は、媒体の種類だけで決まるものではなく、製品品質、使用頻度、保存環境、取扱方法によって大きく変わります。次に示す年数は「安全が保障される期間」ではなく、点検や更新を計画するための目安です。



JIS Z 6009 銀-ゼラチンマイクロフィルムの処理および保存方法
2年または3年ごとに抜取り検査をおこなう。
JIS K 7641 写真-現像処理済み安全写真フィルム保存方法
JIS Z 6017 電子化文書の長期保存方法
紙・書籍
媒体
定期検査方法
CD / DVD
印画紙
写真フィルム
マイクロフィルム
5年程度を目安に抜取り検査をおこなう。
2年ごとに抜取り検査をおこなう。
2年ごとに抜取り検査をおこなう。
JIS K 7642 写真-写真印画の保存方法
防ぐ技術・直す技術ー紙資料保存マニュアル(日本図書館協会資料保存委員会)
保管場所全体の空気・虫・埃・排水管・空調などを日常点検する。
HDD や SSD、USBメモリは、外観だけでは劣化や故障時期を正確に判断できません。また、前兆なく読み出し不可能になることがあります。したがって、媒体の状態確認だけに頼らず、複数保存、定期的な読み出し確認、計画的な媒体移行を組み合わせます。
媒体移行の周期は、媒体の種類だけでなく、使用状況、保存環境、製品仕様、重要度に応じて設定します。異常が発生してからではなく、正常に読み出せるうちに新しい媒体へ移行することが原則です。
■
「HDD(ハードディスク)」
3〜5年程度を目安に更新を検討します
通電の有無に関わらず、内部の駆動パーツや潤滑油の劣化が進むため、5年を待たずに新品のハードウェアへデータを丸ごと移し替える必要があります。
■
「SSD・USB メモリ 」
短い周期で確認し、単独保存を避けます
未通電保管では、データ保持性能が低下する可能性があります。最低でも年に 1 回は通電を行い、内部のコントローラーによるデータの自動リフレッシュ(再配置)を行わせる必要があります。安全を期すのであれば、2年以内での媒体移行が推奨されます。
各記録媒体には「推定寿命」が存在しますが、製造上の個体差や保存環境の変動により、想定より早く劣化が進行するケースが多々あります。情報を将来にわたり確実に守るためには、定期的な状態点検により劣化の兆候(耐久性)を把握し、環境改善や媒体の複製・データ移行(マイグレーション)を計画的に行うことが不可欠です。以下に主要な記録媒体の定期検査方法をまとめました。

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長期保存が必要な情報には、推定寿命が長く、複製の必要性が少ないマイクロフィルムが選ばれてきました。しかし、世界で唯一マイクロフィルムを生産していた富士フイルムが2025年2月に生産中止を発表し、同年12月をもって最終受注となりました。あわせて、古文書等の紙資料の虫害・カビ対策に長年使われていた文化財用燻蒸剤「エキヒュームS」も2025年3月末で販売終了しています。従来型のアナログ保存だけに頼る管理は限界を迎えています。
一方、デジタル媒体は複製や検索が容易ですが、機器故障、データ破損、規格や再生環境の陳腐化に備える必要があります。情報の重要度、保存期間、利用頻度に応じて媒体を組み合わせ、異なる場所に複数保存することが有効です。
記録を後世へ伝えるために必要なのは、適切な保存環境を維持し、定期的に状態とデータの完全性を確認し、正常に読み出せるうちに複製・媒体移行を続ける仕組みを構築することです。



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参考文献